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新しいタイプのNrf2活性化剤に関するライセンス契約締結について
2025/07/14 ニュースリリースUBE株式会社(社長:西田祐樹、本社:東京都港区、以下「UBE」)と熊本大学発ベンチャーである株式会社GALTS Pharma(代表:甲斐広文、本社:熊本県熊本市、以下「GALTS」)は、この度、UBEと熊本大学との共同研究にて有用性を見出したUD-051について、全世界における独占的ライセンスをGALTSが取得することで合意しましたのでお知らせいたします。UD-051はNuclear factor erythroid 2-related factor 2(Nrf2)とKelch-like ECH-associated protein 1(Keap1)とのタンパク質-タンパク質相互作用の阻害剤*¹ であり、アルポート症候群*² 及び腎疾患の治療に使用されることが期待されています。
アルポート症候群は、現在のところ有効な治療薬がなく、主に対症療法としてレニン・アンジオテンシン(Renin-Angiotensin: RA)系阻害薬*³ が使用されます。しかし、多くの患者は末期腎不全に進行し、腎代替療法を受けることになります。近年、腎臓病の治療薬開発において、Nrf2が酸化ストレスや炎症反応から細胞を守る転写因子であることから、新たな創薬ターゲット分子として注目されています。UBEと熊本大学との共同研究にて有用性を見出した新規化合物UD-051はNrf2を顕著に活性化するものであり、アルポート症候群モデルマウスへの顕著な腎保護作用が確認されました。特に、RA系阻害薬との併用により腎不全への進行が抑制され、アルポート症候群モデルマウスの生存期間を顕著に延長する結果が得られました(令和3−5年度AMED事業「腎疾患実用化研究事業」で熊本大学・甲斐広文が研究代表者、UBEが研究分担者を務めた「日本発の特異的かつ可逆的Keap1阻害薬開発に繋がる腎病態改善アプローチの探索」の研究成果の一部)。本研究成果は、国際的なオープンアクセスジャーナル「Life Science Alliance」に受理され、6月17日に公表されています。UD-051の薬理学的なインパクトを示す試験結果(糸球体濾過率、アルブミン酸化度、病理所見など)は、国際的に知られるようになり、今後の治療法開発における重要な知見となります。
UD-051はUBEの医薬研究所で新しく合成された低分子化合物であり、Nrf2とKeap1とのタンパク質-タンパク質相互作用阻害剤です。nMオーダーの濃度でNrf2とその抑制因子であるKeap1との相互作用を阻害しNrf2を活性化し、高い経口吸収率を示します。
本契約により、GALTSはUD-051に関して、今後の開発、製造及び販売に関する全世界における独占的権利を獲得します。
熊本大学、神戸大学の研究開発チームは、令和7年度AMED事業の「難治性疾患実用化研究事業」の「医薬品の治験準備(医薬品ステップ1)」に、全国で唯一採択されており、GALTSは、本事業にGP-051(UD-051のGALTS開発コード名)の研究開発連携企業として参画します。また、本医薬品開発は、AMEDだけでなく、公益財団法人くまもと産業支援財団や熊本市の新製品・新技術に対する支援などを受けています。これらにより、今後の臨床試験に向けた体制整備が進む中、熊大薬学部のアカデミアに加え、大手の内資および外資系製薬企業での実務を長年経験した創薬の専門家と、法律・財務・投資戦略の専門家が経営チームに結集した創薬ベンチャーであるGALTSは、その独自の強みを活かし、外部受託研究機関等を活用して、効率的かつ迅速な経営を実現させることで、GP-051の臨床試験実施に向けて邁進してまいります。
UBE株式会社について
スペシャリティ化学を志向するUBEにおいて、医薬事業はライフサイエンス分野の中核事業となるべく、創薬研究事業では従来の低分子医薬品の他、ADC(抗体薬物複合体)などの高付加価値創薬に挑戦しております。また、CDMO事業では既存の低分子医薬品分野を拡充すると共に、新規モダリティの製造技術を駆使した核酸医薬品等を通じて、人々の生命・健康を守る手段を提供してまいります。
株式会社GALTS Pharmaについて
熊本大学教授であった甲斐広文が早期退職し、2023年8月22日に立ち上げた創薬ベンチャーです。GALTSは、「三方良し(Good for All Three Sides)」と「アルポート症候群のために(Good for Alport Syndrome)」に由来し、大手の内資および外資系製薬企業等の経験者や法律・財務・投資戦略の専門家、並びに熊本大学薬学部の教員が取締役や顧問として関わっています。GALTSは、今後もGP-051の薬効薬理、薬物動態および安全性プロファイルの検証を進め、ヒトでの有用性を示すエビデンス取得を目指し、GLP非臨床試験を実施し人での治験に向けた準備を進めていきます。本剤はその作用メカニズムから、一般の慢性腎臓病や難聴への展開も視野に入れ、いわゆる透析ゼロ、腎移植ゼロ、難聴ゼロの社会の実現に貢献することが期待されています。GALTS は、世界中のアルポート症候群患者さんに早期に革新的な治療を提供することを目指し、今後も研究開発を加速させていきます。
- Nrf2とKeap1とのタンパク質-タンパク質相互作用阻害剤
Nrf2は、細胞内で酸化ストレスや炎症反応から細胞を守る重要な転写因子(遺伝子の発現を調節する因子)です。Nrf2は細胞が酸化的ストレスや有害物質に曝されると活性化し、細胞内の抗酸化物質や解毒酵素、さらには細胞の修復に関わる遺伝子群を誘導します。この反応は、細胞の損傷を防ぎ、組織の恒常性を保つために重要な細胞の保護メカニズムです。
Nrf2は通常、細胞質でその抑制因子であるKeap1によって抑制されており、Keap1はNrf2をユビキチン化して分解します。しかし、酸化ストレスや有害物質に曝されると、Keap1がNrf2と結びつかなくなり、Nrf2は細胞核に移行して遺伝子発現を調節するようになります。したがって、Keap1とNrf2の結合を阻害する薬剤によってNrf2をより活性化することで、腎臓の酸化的ストレスを軽減し、腎機能の保護に寄与することが示唆されています。特に、アルポート症候群では、Nrf2の活性化によって腎障害の進行を抑える効果や、加齢性を含む難聴を軽減する効果も期待されています。 - アルポート症候群
アルポート症候群(指定難病)は、遺伝性の進行性腎疾患で、主に腎臓、内耳、および目に影響を与える疾患です。この症候群は、コラーゲンIV型の遺伝子変異によって引き起こされます。特徴的な症状には、血尿を伴う進行性の腎機能障害、聴覚障害、及び視力障害があります。アルポート症候群は遺伝的に伝播し、X染色体連鎖型、常染色体劣性遺伝型、または常染色体優性遺伝型で継承され、小児で2番目に多い遺伝性腎疾患(出生率:4-5万人に1人、人口当たりの有病率:5000人に1人。日本における患者数は、数千人と推定)です。重症例では10代後半から20代にかけて末期腎不全移行を余儀なくされ、若年透析導入の主因になると共に腎移植や透析後も、難聴や失明などの症状により生活の質(QOL)の低下に繋がります。現在の治療は対症療法であり、腎機能の低下を遅らせるために腎保護薬(RA系阻害薬など)や透析などを行いますが、根本的な治療法は確立されていません。 - レニン・アンジオテンシン(RA)系阻害薬
RA系阻害薬は、血圧を調節するホルモンシステムであるレニン・アンジオテンシン・アルドステロン(RAA)系の働きを抑制する薬剤であり、体内での水分及びナトリウムのバランスを調節し、血圧の維持に重要な役割を果たします。RAA系は、腎臓で分泌されるレニンによって始まり、最終的にアンジオテンシンIIという強力な血管収縮物質が生成され、それが高血圧や腎臓の損傷に関与します。RA系阻害薬には、アンジオテンシン変換酵素阻害薬、アンジオテンシンII受容体拮抗薬、レニン阻害薬があります。これらの薬剤は、高血圧の治療や、心不全、慢性腎疾患などに用いられることが多く、腎臓を保護する作用があるため、特にアルポート症候群などの進行を抑える目的でも使用されます。
お問い合わせ先
UBE株式会社 コーポレートコミュニケーション部 広報グループ
TEL:03-5419-6110 E-mail:contact_pr@ube.com
株式会社GALTS Pharma 代表 甲斐広文
E-mail:contact@galtspharma.com URL:https://galtspharma.com