UBE/UBE株式会社

REPORT vol.3
チラノ繊維®/40年以上にわたる技術と挑戦の物語

チラノ繊維®搭載航空機エンジンが、空を変える。
UBE㈱
チラノ繊維®営業担当

※肩書・担当は掲載当時のものです

01

製品が市場に出るまでの
私たちのチャレンジ

金属の限界を超えろ
次世代航空機エンジンを支える「チラノ繊維®」の挑戦

世界の航空業界が直面している最大の課題、それは「燃費向上」と「CO2排出量の大幅な削減」です。この課題を解決するためには、航空機エンジンをこれまで以上に高温で効率よく稼働させる次世代エンジンの開発が不可欠です。
しかし、ここで立ちはだかるのが「素材の壁」です。燃費を向上させるにはエンジンを超高温(1000度以上)で動かす必要があります。ところが、従来の金属材料では1100度付近が使用限界のため、非効率を承知で高温部をわざわざ空気で冷却しながら稼働させなければなりません。金属材料のみを使用した航空機エンジンの性能向上は、物理的な限界を迎えていたのです。
そこで、金属に代わるゲームチェンジャーとして世界中から熱い視線を浴びたのが、超高温にも耐え、しかも軽い「セラミックス複合材料(CMC:Ceramic Matrix Composite)」です。UBEは、このCMCの性能を左右する中核素材である「チラノ繊維®」の開発を担い、2030年代後半の次世代民間航空機エンジンへの実用化を目指す国家プロジェクトに2015年より参画しています。

40年越しの執念 世界で唯一無二の
チラノ繊維®とは

UBE独自の技術で生まれたチラノ繊維®の製造は"職人技"の世界でもあります。主にシリコンと炭素から成るセラミック連続繊維で、繊維1本の太さはおよそ10ミクロン。人間の髪の毛の約10分の1しかありません。その超極細繊維を数百本束ね、しかも切れ目なく連続した状態でつくらなければなりません。
現在この技術を商業化しているのは、世界中を探しても、UBEを含めてごく限られた企業のみです。多くのメーカーが開発に挑みながら撤退したのも、この「繊維化」の難しさが理由でした。
「より熱に強く、より強い材料」を追い求めてすでに40年以上経過していますが、「航空機エンジン搭載」を夢見て、あきらめることなく開発を続けてきたUBEの執念が、ついに花開こうとしています。
02

テクニカル・ハードルへの
私たちのチャレンジ

エンジン革命を実現する「壊れないセラミックス」 エンジン革命を実現する 「壊れないセラミックス」

CMCは軽く、超高温に強いのが特性で、環境負荷低減と性能向上を同時に叶える航空業界の切り札ともいえる素材です。その耐熱温度は火山のマグマをも上回る1400~1500度に達します。
一方で、セラミックス自体は陶器のように割れやすいという弱点も持っています。そこで必要とされたのがチラノ繊維®です。織物状にしたチラノ繊維®をエンジン(タービン部分)の骨組みとして積み重ね、繊維の隙間にセラミックスを浸透させることで壊れにくいセラミックス、つまりCMCが実現するのです。
たとえるなら、チラノ繊維®という「鉄筋」と、セラミックスという「コンクリート」が組み合わさることで、より強度の高い「鉄筋コンクリート」をつくっているとイメージいただければと思います。
仮にCMCが損傷しても、骨格となる繊維(チラノ繊維®)が形状を保持するため、飛行中にエンジン部品となるCMCが完全崩壊するリスクを限りなく抑えることができます。しかも、チラノ繊維®単体はCMCを超える耐熱性能(高温タイプで1600度)も兼ね備えているのです。
世界的にはすでに航空機エンジンの一部にCMCの搭載が始まっており、UBEも現在、CMCとしての性能向上を進めながら、2030年代後半の実用化を目指しているところです。

設計から製造まで プロセス全体で保証される
航空機品質

航空機向け材料の品質要求の厳しさは、一般産業とは別ものです。
通常の工業製品では、完成品だけで品質保証するのが一般的。しかし、航空機分野では完成品だけでなく「材料設計から製造に至るまでのプロセス全体」での品質保証が求められます。
なぜそこまで厳しいのかといえば、理由は非常にシンプルで、航空機は人命を預かる乗り物だからです。
チラノ繊維®は航空機エンジン内部の超高温部で使われる予定なので、万が一にも飛行中に材料が破損すれば、大事故につながりかねません。そのため、小さな試験片での材料評価だけでなく、要素試験、部品試験など莫大なデータを蓄積する必要があります。さらに、実機エンジンを何千時間も動かす長期試験や、異物衝突試験など、膨大な検証が必要になるのです。
この先、次世代エンジンが完成しても、さらに飛行試験から就航まで数年はかかるでしょう。それほどまでに"空を飛ぶ材料"のハードルは高いのです。
03

チラノ繊維®が
拓く未来への
私たちのチャレンジ

最大10%の燃費改善がもたらす未来 極限素材が切り拓く、持続可能な空の旅 極限素材が切り拓く、 持続可能な空の旅

チラノ繊維®の価値は、単なる素材のスペック向上にとどまりません。チラノ繊維®を用いたCMCが次世代航空機エンジンに搭載されることで、将来的には最大で約10%の燃費改善が見込まれています。これは、航空業界における莫大な運航コストの削減はもちろんのこと、地球規模の課題である「CO2排出量の大幅な削減」に直結する社会的インパクトを持っています。
航空分野は、世界全体のCO2排出量の約3%を占めるといわれています。年間排出量は約10億トン。この数字は日本全体の1年間のCO2排出量(約11億トン)に匹敵する規模です。
もし航空機エンジンの燃費を最大10%改善できれば、単純計算でも年間1億トン規模のCO2削減につながります。だからこそ、航空機メーカーは金属からCMCへの置き換えを急いでいるのです。
また、チラノ繊維®は高温による劣化が起こりにくいため、部品の長寿命化も実現します。部品の交換頻度が減れば、航空機のメンテナンス負担も軽減。しかも安全で安定した航空輸送を長期にわたって支えることが可能になります。
この技術、ノウハウは、私たちの空の移動をより環境にやさしい、持続可能なものへと変えていくはずです。

原子炉内部の
安全対策材料としても期待

私たちが次に見据える舞台は、原子力発電や核融合発電分野です。
チラノ繊維®は高温に強いだけでなく、中性子の照射に対しても優れた耐性を持っています。将来的には、原子炉内部の安全対策材料としても期待できます。
東日本大震災で起こった福島原発事故では、燃料を覆う金属材料が高温で損傷しました。これは二度と起こしてはいけない事故です。昨今、いろいろな安全対策を施す技術開発が進行中です。金属の代わりに高耐熱性のCMCが活用できれば、極限環境でもメルトダウンを防ぎ、安全性を高められる可能性があります。
もちろん、すぐに結果が出る仕事ではありませんが、数十年後の社会を変える、「誰かがやらなければいけない技術」なのです。
チラノ繊維®の研究が始まった1980年代、こうした未来は見えていませんでした。市場が小さく実用化時期が見えない、莫大な時間とコストがかかる・・・・・・社内でも「本当に事業になるのか?」という声があったと聞いています。
それでも研究は止まりませんでした。背景にあったのは、"先輩技術者たちの執念"です。
世代を超えて、「熱に強い究極の材料をつくる」という夢のバトンが引き継がれてきた結果、社会に還元できるときがとうとう目の前まできたのです。
私の今の目標は、自分が定年退職するまでにチラノ繊維®が載った飛行機に乗ること。空を飛ぶのは材料だけではありません。先輩たちの40年分の思いも大空へ羽ばたくに違いありません。

次回は「フェノール樹脂」の
パーパス体現に迫ります

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