UBE株式会社 代表取締役社長
西田祐樹
1987年広島大学大学院修了後、宇部興産(現UBE)入社。化学分野で製造・開発・営業・欧州駐在を経験し、2016年執行役員、2025年よりUBE代表取締役社長、CEO に就任。
ヴァイオリニスト
服部百音
5歳よりヴァイオリンを始め、8歳でオーケストラと初共演。2009年にリピンスキ・ヴィエニャフスキ国際ヴァイオリンコンクールで、史上最年少第1位並びに特別賞を受賞。11歳でグランドデビューし、ロシア・ヨーロッパで演奏活動を始める。その後、数々のグランプリや音楽賞を受賞。著名オーケストラと共演を重ね、海外でも様々な演奏活動を行っている。
今年で19回目を迎える「UBEクラシックコンサート」。今回ソリストを務めるヴァイオリニスト・服部百音さんと、UBE株式会社 代表取締役社長 CEO・西田祐樹による特別対談が実現しました。ヴァイオリンと経営。それぞれの道を歩んできた二人の対話には、多くの共通点がありました。互いの信念が共鳴することで生まれたのは、新たな気づきと、特別な化学反応とも呼べる時間でした。
本質を見つめ、高みを目指してきた二人が、それぞれの経験や想いを語り合う特別対談の模様をお伝えします。
西田
2007年に創業110周年を迎え、その記念事業として、翌2008年から「UBEクラシックコンサート」がスタートしました。このコンサートの背景には、当社が創業以来大切に受け継いできた精神「共存同栄」があります。
当社は宇部の地で石炭採掘事業をスタートし、新しい事業を次々と創出してきました。その後、化学事業を創業し、多角化を経て発展してきましたが、その歩みの中で一貫して大切にしてきたのが、地域と共に歩み、繁栄していくという考え方です。「UBEクラシックコンサート」は、この「共存同栄」という想いそのものに、地域への感謝と貢献の気持ちを形にした取り組みです。
現在、当社は売上高の55%を海外が占めるグローバル企業へと成長しましたが、創業の地である宇部への想いは変わりません。毎年、国内外で活躍する素晴らしい音楽家の皆さんを招き、市民の皆さまへの感謝を伝える催しとして、多くの方に親しまれています。
服部
「共存同栄」という考え方が素晴らしいですね。そして宇部市民の方々への感謝のカタチとしてクラシック音楽を選んでいただいたことは、ヴァイオリニストの一人として、とてもうれしいです。
音楽には「世界共通語」として人々を繋げる力があると感じています。私も曾祖父から続く音楽家の家に生まれ、5歳からヴァイオリンを学び、8歳から日本とロシアを行き来しながら、演奏技術を磨いてきました。
しかし、舞台で演奏する機会が増えると、自分では完璧に演奏したつもりでも観客の方々の心にあまり響かなかったりする一方、ミスをした演奏で涙を流して感動してくださる場面を何度も目にしてきました。
「なんでこんな現象が起こるのだろう?」と不思議で仕方なかったのですが、技術的な完成度ではなく、音楽を愛する気持ちや演奏するエネルギーが人々の心を揺り動かしているのだと気が付きました。これこそが世界共通語として音楽が持つ力だと思うのです。
西田
今のお話を聞いて、服部さんが音楽に込めている想いが強く伝わってきました。音楽の技術だけではなく、そこに込められたエネルギーやメッセージを届けることを大切にされているのですね。
私たちも「有限の鉱業から無限の工業へ」という創業の精神を受け継ぎ、「化学」を用いて世界に貢献したいという想いで、暮らしを便利に快適にする材料や製品を開発・提供し続けています。
そして昨年には、環境問題も含めて社会が抱えている難題を解決するために、「希望ある化学で、難題を打ち破る。」というパーパスを制定しました。さらに、パーパスを実現するために「未解決な未来に挑もう。」というスローガンをつくり、合言葉にして全社員に発信しています。
服部
私たち演奏家も、西田社長がおっしゃるように作曲家の作品を受け継ぎ、今を生きる方々に向けて再現する役割を担っています。そういう意味では、企業活動と音楽活動には共通点があるような気がします。
演奏会の開催にはコストもかかります。リスク管理も必要なわけですが、それに捉われ過ぎると一歩も踏み出せなくなってしまいます。だからこそ「希望ある化学で、難題を打ち破る。」という言葉には勇気がもらえます。私もリスクを恐れずに希望ある音楽の力を信じて、世界の観客に音楽の素晴らしさを伝えていく活動を続けていきたいと思っています。
西田
ありがとうございます。私がパーパスやスローガンを伝える時に大切にしているのが、社員と対面の機会をできるだけ設けて、自分の言葉で伝えることです。若い社員と車座になって、そこに込められた想いを熱く語っています。回数を重ねていく中で、「社長の言葉で初めて腹落ちしました」という声をよく聞くようになりました。
服部
社長が対面で社員の方に伝えているというのは意外でした。というのも、企業は活字やメールで必要な事柄を伝達する文化だと思っていたのですが、対面を重視する姿勢に共感しました。同じ空間や時間を共有することが、そのまま情熱や想いを伝えることにつながると思います。もし私がUBEの社員だったら、熱く語る西田社長を敬愛しています(笑)。
演奏会でも、会場の空気感や演奏家の熱演、そして観客との一体感など、その瞬間でしか味わえないものがあります。そんな一期一会を大切に思うからこそ、すべての力を出し切る姿勢につながり、それが、心を動かす演奏につながるのだと思います。
服部
ここまでのお話で、経営とオーケストラの共通点を強く感じています。オーケストラのマエストロ(指揮者)は、ソリストや楽団員一人ひとりの考え方や個性を把握した上で、演奏の方向性を示し、それぞれの演奏家の個性を輝かせると同時に全体の最適解を導いていく役割を担っています。
西田社長も新しい時代に対して企業が目指す方向をパーパスとして示して、社員の方と対話を通して一人ひとりに浸透するための活動を行っています。このプロセスは同じものだと感じながらお話を伺っていました。
西田
確かに企業経営者は、組織が目指すべき方向性をしっかり示すことが重要です。しかし、それを実現していくには経営者一人では無理です。社員一人ひとりが、理念に共感し、全員の力を結集することが不可欠です。そのために私は「こうなりたい」「こうしたい」という組織のあり方を示して、できるだけ多く社員と対話する機会を設けていますが、オーケストラの場合はどうなのでしょうか?
服部
何度もリハーサルを繰り返す中で、トライアンドエラーを繰り返して完成度の高いものに練り上げていきます。その時に、マエストロ、演奏者との意見の相違もでてきますから、アイデアを出し合うなどのコミュニケーションを繰り返して修正を加えていきます。そのプロセスがあるからこそ、何十名もの演奏者が一体化した演奏にしていけるのです。
西田
私も元々は研究開発部門に在籍していましたが、新しい技術や製品の開発はまさに実験の繰り返しでした。しかし、このプロセスがなければ新しいものは生まれません。音楽も化学もつねにチャレンジをすることが進化や成長を生むことにつながるのですね。
西田
演奏者の個性と同じように楽器にも個性があると聞きます。服部さんがお弾きになるグァルネリ・デル・ジェスという楽器はどのようなヴァイオリンなのでしょうか。
服部
ヴァイオリンで名器と言えばストラディバリウスが有名ですが、双璧と言われる名器がグァルネリ・デル・ジェスです。ストラディバリウスは均一で滑らかな音を奏でるという特徴がありますが、グァルネリ・デル・ジェスは、荒々しく鋭角的な音が特徴的です。いうならば暴れ馬のような楽器で、使いこなすのが大変なのですが、私はグァルネリ・デル・ジェスが好きです。
西田
製作者によって楽器も大きく違うのですね。しかも何百年も昔から使われているのが驚きです。
服部
ヴァイオリンの素材は木で呼吸しています。ガラスケースの中に入れたままだと、木が呼吸をできず細胞が死んでしまい、いい音が出なくなります。だから、時代ごとに多くの演奏家が使い続けていくことで楽器も生き続けることになります。表面に塗られているニスも重要で、300年前に塗られたものだからこそ出る絶妙な音があります。現在のところ音とニスの因果関係は解明されていませんが、それがサイエンスの力で解き明かされると楽器のあり方も大きく変わるかもしれません。このように音楽は抽象的な芸術のように思われがちですが、実はサイエンスで成り立っている部分も多いのです。
西田
昔の名人が作った楽器を使い続けていくというのは、まさにサステナブルな行為そのものですね。何百年も前に創られた素晴らしい曲と楽器の魅力を余すことなく蘇らせることで素晴らしい音楽が生まれる。今日、服部さんとお話をして、今まで以上にクラシック音楽に興味を持つことができました。
西田
第19回UBEクラシックコンサートを楽しみにしている宇部の皆さんへメッセージをいただけますか。
服部
今回、演奏するブラームスのヴァイオリン協奏曲と交響曲第1番は、曲の持つエネルギーがすごくて情熱的な音楽です。聴いているだけで生きることを前向きにする活力を与えてくれる音楽だと思います。
コンチェルト(協奏曲)は、マエストロとソリスト、そしてオーケストラが音によるコミュニケーションを取りながら巨大なエネルギーの渦になって観客の方々に届けますが、音楽は演奏するだけでは完結しません。聴いていただける観客の皆さんに味わっていただくことで初めて完結します。
私も全身全霊をかけて演奏しますので、情熱を感じ取っていただければ幸いです。
西田
曲に込められた想いやメッセージを、多くの人たちに伝える演奏家としての使命を感じます。
私個人としても今回の対談をとおして、クラシック音楽の魅力を再発見でき、宇部で演奏をお聞きするのが本当に楽しみです。
世界で活躍されている服部さんと日本を代表するオーケストラである日本フィルハーモニー交響楽団が奏でる音楽を、宇部市民の皆さまに心ゆくまで楽しんでいただきたいと思います。
UBEクラシックコンサートは、「市民とともに、音楽とともに。」をコンセプトに、次世代音楽文化振興事業として開催しています。音楽を通じて子どもたちの成長を支援することを目的に、宇部市・山陽小野田市・美祢市の小中学生を無料招待するとともに、チケット収益の一部を地域の音楽文化振興に活用しています。
第19回コンサートでは、指揮者・山下一史、ソリスト・服部百音(ヴァイオリン)、日本フィルハーモニー交響楽団を迎え、ブラームスの《ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 op.77》と《交響曲第1番 ハ短調 op.68》を演奏します。
日時:2026年10月11日(日)
会場:宇部市渡辺翁記念会館
出演者プロフィールやチケット情報などの詳細は、こちらのチラシをご覧ください。